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中村哲医師の非業の死、なぜ英雄は狙われたのか?

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中村医師の死亡を報じるNHK

 NGO「ペシャワール会」現地代表の中村哲医師が、4日、アフガニスタン東部ナンガルハル州で何者かに襲撃され、亡くなられた。日本の人道支援関係者の中でも、最も厳しい環境の中で、現地の人々の信頼を得て活動してきた偉人の非業の死に、志葉も衝撃を受けている。

 ペシャワール会は1983年、当時パキスタンでの活動していた中村医師の医療活動を支援する目的で結成されたNGO。2000年から、干ばつ被害が深刻化したアフガニスタンで飲料水・灌漑用井戸事業を始め、2003年から農村復興のための水源確保として、大規模な灌漑事業を開始、異常気象による洪水等とも、たたかいながら事業を拡大していた。こうした灌漑事業により、東京ドームの約3510個分の土地(1万6500ヘクタール)に水を供給。多くの農民達を救ってきた。

 こうした功績から、中村医師は2018年に、アフガニスタン政府から勲章を受け、今年10月には同国名誉市民証も授与されていた。同国のモハンマド・アシュラフ・ガニ大統領は、中村医師を「英雄」と絶賛した。

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 アフガニスタン政府から最大限の称賛を得たことは、中村医師やペシャワール会にとっても、今後の活動に大いに役立つことであったろう。ただ、これはあくまで志葉の憶測で実際のところは今後、現地情報を収集していかなければいけないが、アフガニスタン政府の絶賛が裏目になってしまった可能性もある。アフガニスタンでは、近年、IS(イスラム国)が台頭、つい先月、アフガニスタン当局による大規模なIS掃討作戦がナンガルハル州で行われていた。つまり、アフガニスタン政府から英雄と認められたが故に、中村医師はIS或いはその支持者に狙われてしまった、ということはあり得ることなのだ。ガニ大統領が絶賛し、名誉国民証を与えた人物が殺されたとなれば、アフガニスタン当局の威信を大きく傷つけることができるからだ。

 中村医師がこのようなかたちで亡くなられたことは、本当に痛ましいし、あまりに残念なことだ。だからこそ、日本のNGO・NPOの人道支援に対し、足を引っ張るような動きが出てこないようなことを祈る。「やはりNGOやNPOじゃダメだ、海外の人道支援は自衛隊に任せろ」といった声も出てくるだろうが、世界最強の軍隊である米軍もアフガニスタンやイラクで多大な被害を被ったし、命は取り留めた米軍兵士達も今なお深刻なPTSDに苦しんでいる。自衛隊のイラク南部サマワへの派遣も、本当に紙一重だったことは、2018年4月に公開されたイラク日報を読めばわかることだ。

 アフガニスタン復興や現地の農村の救済のため、今後も日本からの民間の支援が途切れないことを祈らざるを得ない。

 中村医師、本当に偉大な方だった。ご冥福を心よりお祈り申し上げます。
(了)

 

 

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