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中村哲医師がたたかい続けた「温暖化の脅威」

 アフガニスタンで長く現地の人々への支援活動を行ってきた中村哲医師(ペシャワール会現地代表)が何者かに襲撃され、殺害されたことに、筆者も大きな衝撃を受けている。また、中村医師が亡くなったのが、COP25(第25回気候変動枠組み条約締約国会議)の会期中であったというのも因縁めいたものを感じる。温暖化の脅威こそ、中村医師が長年たたかい続けた相手だったからだ。

 

「水それから食物の自給こそアフガニスタンの生命を握る問題だということで、過去、ペシャワール会は干ばつ対策に全力で取り組んできました。私たちは医療団体ではありますけれども、医療をしていてこれは非常にむなしい。水と清潔な飲料水と十分な食べ物さえあれば恐らく八割、九割の人は命を落とさずに済んだという苦い体験から、医療団体でありながら干ばつ対策に取り組んでおります」―第170回国会外交防衛委員会(2008年11月5日)で、参考人として発言した中村医師の言葉だ。

 

 アフガニスタンは、「気候脆弱性フォーラム(CVF)」のメンバー国だ。これは温暖化の進行により、特に深刻な影響を受けるとされる国々で結成した、国際パートナーシップ。アフガニスタンは、もともとは農業大国であり、人口の8割が農民だった。だが、2000年前後から現在に至るまで、頻発する干ばつや、3000~4000メートル級の山岳地帯の雪解け水が気温上昇のため一気に流れてしまうことにより、深刻な水不足に悩まされ続けている。2018年には、同国全土の約6割にあたる地域で、極端な乾燥状態となり、「もっとも深刻な10県では、水源の20%から30%が干上がった」として、UNICEF(ユニセフ/国連児童基金)が支援を訴えている。国連広報センターによれば、この年220万人が干ばつに苦しんだという。


🇦🇫 Afghanistan: Millions risk running out of water in severe drought | Al Jazeera English

 

 

 地球温暖化の影響で急速に失われた水を農地に戻す。「百の診療所より一本の用水路を」と中村医師が現地の人々と共に取り組んだのが、灌漑事業だった。中村医師らは、2003年より、水量の豊富なクナール河水系を利用した灌漑用水路建設計画を開始した。だが、その作業は苦難の連続であったと、中村医師はその著書『医者、用水路を拓く』(石風社)で振り返る。

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中村医師の著書『医者、用水路を拓く』

干ばつの一方で、大雨や洪水などの異常気象もアフガニスタンを襲い、中村医師を含め作業チームは土石流、水路の決壊など数々の困難に直面。

その上、中村医師らは皆、大規模工事の経験は無く、日本でのような資金・物量に頼る工法も使えない。自然に翻弄され、無い無い尽くしの中、悪戦苦闘する中村医師らは、日本の伝統の治水技術に活路を見出していく。中村医師の地元・福岡県で江戸時代に築かれた山田堰を参考に、第一期工事13kmが完工。ついには荒廃した大地に水を行き渡らせ、見事、緑を蘇らせたのだった。

 

 

 その後も、干ばつによるクナール河の水位低下や洪水などの異常気象に悩まされながらも、灌漑事業を続けてきた中村医師。ペシャワール会によれば、1万6500ヘクタール(東京ドームの約3510個分)の土地に水を供給し、約60万人の農民達がその恩恵を受けているという。その業績から、アフガニスタンの「英雄」として、同国のガニ大統領からも勲章と名誉市民権を授与され、その活動は今後より一層充実したものになるはずだった。カリスマ的指導者を失ったことは、現地の灌漑事業にとっては大きな痛手だ。本事業には、JICAも協力してきたが、中村医師と共に事業に取り組んできた現地スタッフを支え、事業を継続するためのサポートを期待したい。同時に、世界第5位の温室効果ガス排出国として、温暖化の進行を食い止める責任を担うことも、重要だろう。

 「アフガニスタンにとって現在最も脅威なのは、みんなが食べていけないということであります」「このみんなが食べていけない状態、そのためにみんな仕方なく悪いことに手を出す、あるいは傭兵となって軍隊に参加するという悪循環が生まれている」(第170回国会外交防衛委員会での中村医師の発言)

  中村医師の言葉を噛み締めて、筆者としても、温暖化防止の動向を報じていきたい。
(了)

 

 

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