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なぜ沢尻エリカ叩きは有害か―署名サイト訴えに説得力 *再投稿

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沢尻さん出演回の放送を求める署名サイト


 女優の沢尻エリカさんが麻薬取締法違反の疑いで逮捕されたことで、メディアは大騒ぎだ。特に、来年のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」は沢尻さんが主要な出演者の一人であったため、初回から10話までの撮影をやり直すということまで検討されているという。 

this.kiji.is 芸能人が薬物事件で逮捕されると、毎度、そこまで騒ぐ必要があるのか、という程、日本のメディアはそれ一色になり、まるで全人類の敵であるかのように徹底的に叩く。その攻撃力の十分の一でも権力の腐敗に向ければいいものを、と毎度呆れさせられる。志葉としては、「もっと他に報じるべき問題があるだろう」と、本件には全く興味がなかったのだが、たまたま、沢尻さん収録分を放映してほしいとNHKに求めるネット署名を見つけ、なるほど、と思わされた。

 

  

◯沢尻叩きがよくない理由

 署名は、「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんが発起人。その呼びかけは、依存症に悩む人々を支援する視点からのもので、説得力がある。

 「芸能界が薬物事件を起こした芸能人に対し刑罰以上の私的制裁を加え、吊るし上げや辱めを与えることは、薬物問題に苦しむ一般の当事者や家族にも多大なる悪影響を与えており、社会からの孤立や私的制裁恐れ、支援や相談に繋がることを困難にさせています。また、薬物依存の回復施設への排除運動などが各地で加速しています」

 

 「薬物事件は欧米諸国では、刑事事件という観点よりメンタルヘルスの問題として扱われ、非犯罪化が進んでいます。薬物事件を起こした人は、なんらかの生きづらさや依存症の問題を抱えており、これは刑罰では解決せず治療が必要です」

 

 「そして芸能界は薬物問題を起こした芸能人の方が再起できるよう、支援の手を差し伸べてください。薬物事件を起こした芸能人の方々が、その経験を語り、回復者のアイコンとして活躍して頂ければ、沢山の苦しみの中にある人々を救い出すことができるでしょう」

 *署名サイトより引用 www.change.org 

 考えてみれば、メディアは、なぜ、薬物事件を起こした芸能人に対し、総力をあげて叩こうとするのだろうか。薬物犯罪は許容されるものではない、という社会的なメッセージを発するといえば聞こえはいいが、単に数字(視聴率や部数)を稼ぎたいだけのような気がする。そうしたメディアの「キャンペーン」が、薬物に手を出す人がいなくなる上で役立つなら、まだ良いのだが、実際に依存症に苦しむ人々を支援してきた田中さんが、今のメディアのあり方に異を唱えているのは、注目に値するだろう。

 

◯薬物に厳しくヘイトに甘い日本のメディア

  出演者の不祥事による降板あるいは番組自体の打ち切り、という点で興味深いのは、米国のテレビネットワーク大手ABCテレビが、人気ドラマ「ロザンヌ」の放送打ち切りを断行したことだ。それは、主演女優であるロザンヌ・バーさんが、ツイッターに人種差別的な投稿したことが原因だった。バーさんは、オバマ前米国大統領の側近バレリー・ジャレットさんについて「ムスリム同胞団と映画『猿の惑星』の落とし子」だとツイートしたのである。この差別的な投稿を、ABCテレビやその親会社であるディズニーは深刻な事態であると受け止め、高視聴率を誇っていた「ロザンヌ」を打ち切ったのである。 

www.cnn.co.jp それに対し、日本のメディアは、差別やヘイトに対し、随分と寛容だ。ことあるごとに差別的、ヘイトスピーチ的な発言を繰り返す作家の著作や、それを原作とする映画やドラマが製作され放映、放送されても、メディアは全く問題にしない。作品と原作者の発言は別、ということもできるが、それならば沢尻さんの個人的な問題と大河ドラマ自体は別だと言えるではないか。

 

◯何のための刃なのか

  思うにメディアは暴力性を持ったものだ。各メディアが特定の個人を集中攻撃すれば、生活は破綻させられ、当人のメンタルヘルスを著しく害し、場合によっては自殺に追い込んでしまうことすらある。志葉自身、イラク日本人人質事件(2004年)でのメディアの猛烈なバッシングが、いかに誘拐事件の被害者達を傷つけ、追い込んでいったか目の当たりにした。だからこそ、メディア関係者は、その刃を誰に向けるのか、どうして向けるのか、ということを、真剣に問い続けなくてはいけないのだと思う。

 (了)

 

 

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