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敵基地攻撃能力はアベノリスク―安倍首相の「最後っ屁」 #今日のニュース #今日の話題

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 安倍晋三首相は、11日、いわゆる「敵基地攻撃能力」の保有を取り入れた新たな安全保障政策について、「年末までに方策を示す」との談話を発表した。安倍首相は退任間近であるが、政治課題として次期政権に託すというかたちだ。この、敵基地攻撃能力とは、簡単に言えば、先制攻撃。つまり、

 外国のミサイルの発射基地からの攻撃の兆候に対し、先制攻撃を行い、未然に攻撃を防ぐことや、それを可能とする能力

 である。だが、自国が攻撃を受けていない時点からの先制攻撃は、自衛の範疇を大きく逸脱し、日本国憲法に反するだけでなく、国際法にも反している。そのため、政府与党の中でも慎重論が少なくなかった。

 

 

 今回、安倍首相が政治家としての遺言のように、「敵基地攻撃能力」の保有に言及したのは、北朝鮮の核兵器と弾道ミサイルを念頭においてのことだが、場合によっては逆効果になるリスクも考えるべきだろう。北朝鮮は移動式の弾道ミサイルを多数持っており、それら全てを同時に破壊することは現実的には極めて難しい。つまり、破壊しそこねた弾道ミサイルが報復攻撃として日本に向かって飛んでくることになる

 

 また、日本が敵基地攻撃能力を保有することは、北朝鮮への先制攻撃を示唆するもので、同国を刺激することとなり、日朝の緊張関係をこれまで以上に高めてしまうという問題もある。 

 そもそも、北朝鮮の政府にとって、最優先であることは体制維持であり、その最大の脅威となるのは米国の軍事力だ。逆に言えば、日本自体は北朝鮮にとって脅威ではなく、同国が日本に向け弾道ミサイルを発射する理由は、在日米軍基地を除けば、特にないのだ。

  だが、安倍首相は自ら北朝鮮を刺激し、同国の敵意を日本にわざわざ向けさせるということを繰り返してきた。安倍政権以前は、北朝鮮の広報官や機関紙等が日本に対する攻撃に言及することはなかったが、米朝関係が緊迫していた2017年、安倍政権が米軍と自衛隊の日米共同訓練を行ったことで、北朝鮮の敵意が日本に向くことになった。2017年3月から同11月にかけて、「日本列島が焦土化しかねない」「取返しのつかない災いを招きかねない」「我が国は強硬な自衛的措置を行使する権利がある」等、北朝鮮側は17回も日本に対する攻撃を示唆したのである。

 

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 今回の敵基地攻撃能力の保有についての安倍首相の意向は、上記の事例のように、日朝関係の緊張を煽ることになり得るだろう。つまり、「僕ちゃんが考えた無敵ジャパン」的な、軍事技術の実際に疎い安倍首相の妄想こそが、むしろ、日本を脅威に晒す恐れがあるということなのだ。

 

 

 既に延べたように、北朝鮮が日本に対し攻撃をする理由があるとしたら、その最も大きなものは、在日米軍基地だ。イラク戦争で、横須賀基地の米軍艦隊が真っ先に対イラク攻撃を行ったこと、沖縄の基地から海兵隊が出撃し、イラク西部ファルージャでの無差別虐殺の先頭を担ったように、在日米軍基地から対北朝鮮攻撃が行われるとしたら、それは北朝鮮にとってではなく、同国の報復攻撃を受けうる日本にとっても安全保障上の脅威となる。安倍政権や批判精神に欠いた日本のメディアは、在日米軍基地を「抑止力」としてしか語ってこなかったが、在日米軍基地はリスクでもあるという現実を直視すべきだろう。

 具体的には、受け入れ国としての主権に基づき、有事の際、純然かつ直接的に日本の防衛に関わることのみにしか、在日米軍の活動を許可しないということを、米国政府に確約させる。その方が、非現実的な敵基地攻撃能力の保有よりも、よほど日本が北朝鮮に攻撃を受けるリスクを軽減するはずだ。

 

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 それにしても、首相としては最後となりえる談話で、妄想レベルの安全保障政策を次期政権の課題としてアピールするとは、やはり安倍首相は「正常な判断ができない状態」なのだろう。

(了) 

  

以下、官邸ウェブサイトより抜粋

令和2年9月11日 内閣総理大臣の談話 | 令和2年 | 総理の指示・談話など | ニュース | 首相官邸ホームページ

(前略)我が国を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しています。特に、北朝鮮は我が国を射程に収める弾道ミサイルを数百発保有しています。核兵器の小型化・弾頭化も実現しており、これらを弾道ミサイルに搭載して、我が国を攻撃する能力を既に保有しているとみられています(中略)しかしながら、迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命と平和な暮らしを守り抜くことが出来るのか。そういった問題意識の下、抑止力を強化するため、ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針を検討してまいりました(中略)これらについて、与党ともしっかり協議させていただきながら、今年末までに、あるべき方策を示し、我が国を取り巻く厳しい安全保障環境に対応していくことといたします(以下略)。

 

 

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