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コロナ禍で浮き彫りメディアの病理―政府からの「要請」、取材制限etc

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南彰MIC議長 筆者撮影


「政府側から『医療崩壊と書かないでほしい』という要請が行われている」、「コロナとの関連で会見がかなり制限されている」―新型コロナウイルスの感染拡大は、日本の報道にも深刻な悪影響を及ぼしていることが、メディア関連労組のまとめたアンケートから浮き彫りとなった。情報源である政府関係者に対するメディア側の過剰な配慮、「番記者村」と呼ばれる記者クラブが会見を牛耳る閉鎖性。コロナ禍においても、報道とは何のための、誰のためのものかという本質的な問題が問われている。

◯医療崩壊と書くな―政府側が要請

 新聞、放送などのメディア関連労組でつくる「日本マスコミ文化情報労組会議(通称MIC)」は報道関係者を対象に、2月末から実施している「報道の危機アンケート」。元々は、テレビ朝日「報道ステーション」の社外スタッフの大量契約解除問題を機に始められたものであるが、MICによれば、安倍晋三首相が「緊急事態宣言」を発令した4月7日以降、新型コロナウイルス関連で危機感を訴えるアンケート回答が目立ってきたのだという。

 ある新聞社・通信社社員はMICのアンケートに対し、以下のように訴えている。

「記者勉強会で政府側から『医療崩壊と書かないでほしい』という要請が行われている。医療現場から様々な悲鳴が聞こえてきているので、報道が止まるところまではいっていないが、『感染防止』を理由に対面取材も難しくなっており、当局の発信に報道が流されていく恐れがある」(新聞社・通信社社員)

 

 MIC議長の南彰氏によれば、上記訴えが寄せられたのは4月中旬頃だと言う。同月1日に、日本医師会は「医療崩壊が近付いている」として「医療危機的状況宣言」を発表。これに対し、安倍晋三首相は同7日、「医療崩壊といった最悪の事態は起きていない」と衆院の議院運営委員会で発言したという経緯がある。メディア側への政府側の「要請」は、まるで安倍首相の国会答弁に忖度しろと言わんばかりだ。

 

 また、全国紙の新聞社社員から「お上のお墨付きがないと、今がどういう状態なのか、判断できない」と危惧する回答が寄せられたという。

「コロナウイルスの報じ方について危うさを感じている。医療崩壊という言葉についても、政府や自治体の長が、ギリギリ持ちこたえていると表現すると、それをそのまま検証もせずに垂れ流してしまっている。実際の現場の声よりも、政治家の声を優先して伝えてしまっていることに危機感を持っている」(全国紙新聞社社員)

出典:「報道の危機アンケート」より

◯コロナ禍に便乗するような取材制限

 コロナ禍に便乗するような取材制限とも見られるような動きもある。

コロナとの関連で会見がかなり制限され、入ることさえできなくなったものもある。不都合な質問を受けて、できるだけ答えを出したくないという意図も感じる。(ブロック紙の新聞社社員)

 

 前出の南委員長は、「政府は緊急事態宣言以降、『感染防止』を理由に平日2回行われている官房長官の記者会見に出席する記者を『1社1人』に絞る制限を始めました。事実上、官房長官の番記者しか参加できなくなるルールです」と語る。

 番記者とは、特定の取材対象に張り付き、情報やコメントを引き出すことを役割とする記者であるが、政治家との距離の近さが癒着につながるという面も否めない。菅義秀官房長官が会見で自身へ鋭い質問をしてくる東京新聞の望月衣塑子記者を嫌い、彼女の質問を制限することに、内閣記者会が「報道の自由」を守るべく毅然とした態度を取れないのも、菅官房長官から情報をもらう側という番記者たちの、立場上の都合がある。

 

だからこそ、番記者以外の記者たちも会見に参加することが重要なのであるが、上記のように「感染防止」を口実として会見がより閉鎖的なものとなってしまっているのだ。

◯コロナ禍の影でスキャンダルがウヤムヤ

 また、コロナ禍の影で、安倍政権のスキャンダルがウヤムヤにされているという事も見逃せない。「桜を見る会」をめぐる疑惑や森友問題をめぐる公文書改ざん財務省職員の自殺、事実上政権が検察を支配することになる検事長の定年延長など、いずれも民主主義国家としての日本のあり方を根底から揺るがす問題だ。世間の関心もあり、メディアとしては、コロナ禍関連のトピックを優先せざる得ない面もあるが、果たしてそれで良いのか。ある新聞社社員からも、以下の様な声がMICに寄せられた。

「感染防止対策で一定協力するのは必要だが権力側が他の重要事案をケムに巻いていないか。そちらを追及しようとすれば世論からも『今なのか』と批判にも晒される。その批判が権力の暴走を許しかねないのに、目先を追うことに精一杯になっている」(新聞社社員)

出典:「報道の危機アンケート」より

◯コロナ禍を機に変革を

 「現在の報道現場で『報道の自由』が守られていると思うか」ー放送、新聞等メディア関係者へのMICのアンケートによれば、「守られている」という回答は、わずか15.9%であった*。南氏は「コロナ禍は日本の報道機関の従来型の手法や体質の限界を映し出しています。今こそ、報道機関の内部から声をあげて転換を図っていかなければなりません」と強調する。社会が大きな危機に直面しているからこそ、政権の振る舞いは適切なものなのか、ジャーナリズムが監視し論じていくことが、これまで以上に重要となる。一般の視聴者や読者たちとしても、MICのようにジャーナリズムをより健全なものをしていこうとする動きを応援していくことが大切なのであろう。

(了)

*MICのアンケート詳細は以下参照。

・2020年2月26日から4月21日までの中間報告(有効回答214)。アンケートは現在も継続中。

・対象は報道関係者。「放送局や新聞社・通信社、関連会社・制作会社・ネットメディアなど報道関係で勤めていた経験はない」という回答は有効回答から除外。

 

 



 

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