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【解説】安田純平さん旅券発給拒否、国側の問題点は?

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講演する安田純平さん 筆者撮影

 ジャーナリストの安田純平さんがシリアでの拘束から帰国後、誘拐犯に奪われたパスポートの再発給を外務省に申請したところ、発給が認められなかった問題で、安田さんは今月9日、国に発給を求め提訴した。

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 この報道に対し、ネット上では「国に迷惑をかけた」「国側の対応は正しい」等の感情論で安田さんを批判する言説があふれている。

 だが、日本は「法の支配」の基づく民主主義国家。感情論で安田さんを罵倒するのはよりも、大事なことは法律が適切に運用されているか否か、ということだ。日本の憲法/法では、個人の人権を国が制限することに対しては、非常に慎重であり、その処分が本当に適切なものか、十分かつ具体的に確認されなくてはいけない。

  さて、国側は発給拒否の理由として「安田さんがトルコから入国制限を受けた」こと、つまり旅券法13条1項1号を根拠にしているが、これについて明確な事実を国は示していない。

 また、仮にトルコが安田さんを入国禁止措置をしていることが事実だとしても、安田さんがトルコに行っても強制送還されるだけ。パスポート自体を取り上げる意味は全くない。

 上記のように、その必要性はないが、仮にトルコへだけは安田さんを行かせないと、どうしても外務省が行政処分するというのであれば、「トルコへの渡航は認められていない」と安田さんのパスポートに記載すれば良いことだ。実際、シリアに渡航しようとしたフリーカメラマンの杉本祐一さんのパスポートを外務省が強制返納させた後、杉本さんが求め、再発給されたパスポートには「イラクとシリアへの渡航は認められない」との記載があった(この記載自体が適切か否かの論議は、この場では置く)。

 それにもかかわらず、パスポート自体を発給しないということは、「居住移転の自由」(憲法22条)、「報道/取材の自由」(憲法21条が根拠)の保護という観点から、法の運用として、あまりに乱暴すぎる。

 よって、安田さんがパスポート発給拒否は「憲法違反」だとしている主張は、極めて当然のことだ。外務省は早急に安田さんにパスポートを発給すべきだ。

 メディアの報じ方も問われる。特にワイドショーなどでは、タレントや専門外のコメンテーターが、ネット上の感情論そのままのコメントをするかも知れないが、本来、メディアは人権擁護や「報道の自由」によって立つべきだということを、番組制作者やテレビ局は肝に銘じるべきであろう。
(了) 

【追記】本件について外務省領事局に問い合わせしたが「個別の事案にはお答えできない」「訴状がまだ届いていないのでコメントできない」と説明責任を放棄した回答であった。

 

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