反米だけでも、イラン&ロシア憎しだけでも、中東情勢は理解できない。少なくとも2000年以降、中東で何が起きているか、理解するためには、やはりイラク戦争についての考察が必要となってくる。また、特にトランプ政権の挙動の分析には、イスラエルの思惑についての考察が欠かせない。
日本のメディアでの、カシム・ソレイマニ司令官に関する報道の中で、抜け落ちているのが、イラク戦争との関係だ。以下、走り書きだが、論点をまとめた。
・ソレイマニ司令官は、イランの「英雄」というだけではなく、むしろ戦争犯罪人の一人。イラクでの地獄のようなイスラム教シーア派対スンニ派の宗派間衝突(2005年~2007年)が引き起こされた要因として、米軍だけではなく、ソレイマニ司令官ら革命防衛隊の関与が大きかった。
・イラク情勢が混迷し続けてきた大きな要因として、サダム・フセイン政権が米国の対イラク先制攻撃によって崩壊した後、空白が生じたパワーバランスの中で主導権を得ようとしたイランの介入がある。その一方で、米国も特にイラク占領初期から中期にかけ、スンニ派を「サダム支持層」と決めつけ、その排除のため、シーア派の政治家や民兵を利用してきた。その残忍さで悪名高い「ウルフ旅団」を創設、訓練したのも米軍。
・米軍やシーア派民兵による迫害によって、スンニ派の一部が過激化。旧政権の軍人や、イラク国外からの過激派勢力とも合流。IS(いわゆる「イスラム国」)はこうした経緯の下、組織化された。
・2013年頃から、イラクでは、親イランのヌール・マリキ首相(当時)の下で、再びスンニ派狩りが行われるように。ISとの戦闘ではシーア派民兵組織が活躍したものの、スンニ派市民への拷問や虐殺も行われた。これらのシーア派民兵組織を指揮したのがソレイマニ司令官。
・ISとの戦闘を契機に、数十のシーア派民兵組織を中心に「人民動員隊(PMF、或いはPMU)」が結成され、イラクにおける一大軍事勢力に。PMFは2016年にイラク軍に編入される。このPMFも、ソレイマニ司令官ら革命防衛隊と切っても切れない関係。イランのイラクでの影響力は、ますます強くなった。
・イラク戦争を発端とするイランのイラクへの影響力の増大は「中東の盟主」を自認するサウジアラビアに危機感を抱かせた。イランとサウジの主導権争いは、シーア派とスンニ派の宗派間対立をイラクのみならず、中東の各地にもたらした。とりわけ、シリア内戦やイエメン内戦では、イランとサウジが露骨に介入。内戦が凄惨さを極める大きな要因となっている。
・イランの台頭に危機感を強めたのは、イスラエルも同様。イスラエルでは、かねてから右派政治家が対イラン先制攻撃を主張してきた。米欧中露とイランとの核合意は、イスラエルにとっては、不十分かつ、むしろイランの国力を高めるとして、容認できないもの。ユダヤ教徒であり、トランプ政権で大統領顧問を務める上、イヴァンカさんの夫でもあるクシュナー氏を通じ、対イラン圧力を求めてきた。トランプ大統領が核合意から離脱したのも、イスラエルのため、と見るべきだろう。
・核合意とは、イランが核兵器開発をしないかわりに、同国の原発の利用を許容、米欧中露は対イラン経済制裁を解除するというもの。トランプ政権は一方的に核合意から離脱。これが、米国とイランの対立の最大の要因となっている。
・結論としては、イランをイラクでのさばらせたことを含め、大体、米国が悪い。