法務省・出入国在留管理庁(入管)がその収容所に、難民を不当に「収容」しているだけではなく、「制圧」という名目での暴力や、精神的な虐待を繰り返していることは、被収容者や、その支援者達がこれまで幾度も報告してきた。ただ、今回、難民支援を行っている弁護士から提供された映像は、入管施設での集団暴行の実態をまざまざと知らしめるもので、この間、入管取材を重ねてきた筆者にとっても驚きであった。
映像で暴行を受けているデニズさん(セキュリティーのため名字は非公開)は、少数民族クルド人への迫害が続くトルコから2007年に来日した、難民認定申請者。デニズさんは、2011年に日本人女性と結婚したものの、法務省・入管は在留資格を与えず、2016年に東日本入国管理センター(茨城県牛久市)にデニズさんは収容され、収容期間は3年以上にも及んでいる。長引く収容や妻と一緒にいられない苦悩、入管職員による虐待などから、収容中に幾度も自殺未遂。現在、デニズさんは入管職員に暴行を受けたとして、国を相手に損害賠償の訴訟を行っている。今回の映像は、証拠として開示を求め、入管側が東京地裁に提出されたものだ。
映像には5、6人の入管職員達らに、ヘッドロックのようなかたちで締め上げられたり、喉元を指で突き上げられたり、腕を捻り上げられるなどされたデニズさんが「痛い」「腕壊れる」「殺さないで」と絶叫しているところが、約20分にわたり映っている(上記動画は筆者が数分程度に編集したもの)。
訴状や筆者の聞き取りによれば、この映像の背景にある事実関係は以下の通り。
2019年1月19日深夜11時から12時の間に、デニズさんは、長期無期限収容の蓄積されたストレスにより、処遇担当職員に、向精神薬の交付を要請した。
しかし同職員は、デニズさんが効果がないとして服用を中断した別の薬が未だ残っていることを理由にして、向精神薬を交付しなかった。そのため、デニズさんは大声で抗議。入管職員は「声を張り上げるな。他の部屋に行って話し合おう」と言い、デニズさんは、「私は自分の部屋から出たくないから、言いたいことがあるのなら、ここで言えばいい。他の皆にも聞いてもらいたいから」と断った。
これに対し、10~15人の職員が「デニズ、皆怒っている」などと言いながら、部屋に侵入。デニズさんの手首を捻ったという。腕を捻られた痛みにデニズさんがもがいたことで、職員らは「殴った」等と言い始め、デニズさんに対し「制圧」を行う。
この際、デニズさんはヘッドロックのようなかたちで締め上げられたり、喉元を指で突き上げられたり、腕を捻り上げられるなどされ、大変な苦痛を味わったと共に、本当に殺されるのでは、と恐怖したのだと言う。
一連の暴行の後、デニズさんは不服申出をしたところ、入管側も「申出に理由あり」と判断が示した。だが、状況は改善されず、暴行した職員がその後も「制圧」行為に参加したとのことだ。
デニズさんは現在も東日本入国管理センターに囚われている。 職員によるデニズさんへの暴力及び「懲罰房」への隔離、デニズさんによる不服申出に対する再発防止策を示さないなどの東日本入国管理センターの対応は「被収容者処遇規則に反し、違法」であると、デニズさんへの法的支援を行う大橋毅弁護士は指摘。
法令を遵守できない法務省・入管が、一体、何故デニズさんの自由を奪う資格があるというのか。筆者はデニズさんのような事例をこれまで何件も見聞きしてきた。これは、もはや、法務省・入管自体の組織としての欠陥だと言える。収容の必要性や、被収容者の処遇など、入管とは独立した機関による、包括的かつ徹底的な調査を制度として構築していく必要があるだろう。
(了)