志葉玲タイムス

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GSOMIA破棄の凍結、日本は「命拾い」―北朝鮮の核や拉致問題、韓国との協力が不可欠

土壇場の、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄の凍結。おそらく、米国の圧力が日韓双方にかけられたのではないかと。対北朝鮮の情報共有の上でGSOMIA破棄は、米国にとっても不利益だったので。

headlines.yahoo.co.jp

先月末、共同通信が“日韓、「徴用工合意」へ検討着手”と報じて、その直後に菅官房長官がこれを否定したので、飛ばし記事扱いされたのだけど、水面下での交渉は続いていたということだろう。

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 米国のみならず、日本にとってもGSOMIAが破棄された場合、拉致問題や北朝鮮の核といった問題に対応する上で、大きな悪影響が及ぶことが予想されていた。GSOMIA破棄の凍結で、日本は「命拾い」したとも言える。北朝鮮の核や拉致問題への対応で、韓国との協力が不可欠だからだ。

 

 

 以下、今年8月に、週刊SPA!で志葉が書いた記事。


 日韓の対立は経済だけでなく、拉致問題や北朝鮮の非核化などにも深刻な影を落としている。典型的なのが、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)だ。日韓で相互に重要な防衛秘密を共有する協定で、’16年に締結されたものだが、8月24日の更新が行われない可能性がある。

 「日韓関係の悪化で拉致問題の解決が後退してしまう」と憂いているのは、北朝鮮による拉致被害者家族連絡会元副代表の蓮池透氏。

「もともと、経済制裁の部分的解除と引き換えに、拉致問題の全面的な調査を行うというストックホルム合意がありました。しかしこれが北朝鮮の核実験と弾道ミサイルの発射でダメになってからは、拉致問題では大きな進展はありませんでした。今回の日韓関係悪化は、さらなるダメージです」(同)

蓮池氏が懸念するのは、一つには拉致被害者についての情報を得られなくなるということだ。

「日本は北朝鮮内部に情報源を持っていません。かなりの情報を、韓国の諜報機関・国家情報院に依存しています。韓国との関係悪化は、北朝鮮についての貴重な情報源を自ら断つということです」

安倍首相は金正恩委員長へ無条件での日朝首脳会談開催を提案しているが、日本が韓国への輸出管理強化の理由として「北朝鮮への流出・軍事転用への懸念」を表明したことに北朝鮮が猛反発。小西洋之参議院議員が防衛省に確認したところ、これまでほとんど日本への攻撃を示唆してこなかった北朝鮮が、最近になって17回も談話や党機関紙などで日本への攻撃を示唆しているという。

「安倍首相が金委員長に会ってもらいたいなら、韓国の仲介は必要でしょう。もし拉致問題の解決を重視しているのであれば、韓国と関係改善すべきです」(蓮池氏)

さらに、日本の安全保障にとって最大の懸案とも言えるのが北朝鮮の核兵器だ。北朝鮮取材を続けるジャーナリスト・石丸次郎氏は「現在の日韓関係の悪化は、日韓双方の安全保障に大きな傷を残してしまうことになるかもしれません」と懸念する。

「‘17年に北朝鮮が核爆弾と弾道ミサイル実験を立て続けに行ったことを受けて、国連安保理は強力な制裁決議を全会一致で可決。北朝鮮に核を放棄させるという、国際社会共同のペナルティの枠組みができたわけです。ところがトランプ米大統領が、来年の大統領選挙を優先し始めてから暗雲が漂っています。米国本土に到達する長距離弾道ミサイルさえ放棄するなら、北朝鮮が核兵器や短・中距離弾ミサイルを持つことを容認してしまうのではないかと心配です。実際、今年5月以降の北朝鮮のミサイル発射について、トランプ大統領は『短距離だから構わない』と繰り返し公言しています。北朝鮮の核は、日韓両国民にとって重大な脅威。日本と韓国は連携していくべきですが、現状ではまともな意思疎通ができていません。とても心配です」(石丸氏)。

 
 韓国側としては、やはりホワイト国除外の撤回を求めてくるだろうが、安倍政権はどこまで譲歩するか。韓国側は、いつでもGSOMIAを破棄できるとしているので、安倍政権としても何らか譲歩を迫られることになるだろう。そもそも、日韓関係悪化は徴用工問題に端を発するもの。中国人労働者の徴用では、被害者と加害企業が和解しているように、韓国の徴用工問題でも当事者間で解決すべきだろう。日本政府が外交問題として介入し対韓制裁すること、メディアが感情的に対立を煽ることが、問題をややこしくしている。歴史修正主義的に過去にこだわるより、今そこにある危機を優先すべきだ。

 

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