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「オリンピックのため」難民を苦しめる日本ー過去最悪の長期拘束、7割近くが難民申請者、衰弱し自殺未遂も

  迫害から逃れ、日本に庇護を求めて来た難民が、難民扱いされず、収容施設に無期限で拘束=「収容」される。国連の人権関連の各委員会から度重なる改善勧告を受けてきた入管(法務省・出入国在留管理庁)による人権侵害が、東京オリンピックに向けて、より深刻なものとなっている。入管の収容施設では、2年以上の長期収容が大幅に増加。また法務省、厚生労働省、警察庁による三省庁による内部文書には、オリンピックを口実に難民排斥を進めていることをうかがわせる記述があった。

○長期収容は「過去最悪の状況」

 

大橋毅弁護士 筆者撮影

「入管による収容が長期化しています。今が過去最悪です」。在日外国人や難民の支援など入管関係で25年の経験があり、クルド難民弁護団事務局長を務める大橋毅弁護士は、現在の状況が極めて異常であることを強調する。「以前は、収容されてから、1年くらい経てば、仮放免され収容施設から出られる見込みがあったし、2年以上、収容されることは特別なケース以外はありませんでした。しかし、今はそうした事例が普通になってしまっています」(同)。

 福島瑞穂参議院議員が法務省に照会した資料によれば、今年6月末の時点で、全国の入管の収容施設に拘束されている在日外国人は、1253人。そのうち、1年以上拘束されている被収容者は531人で、割合は42.3%。長期収容施設と位置づけられる東日本入国管理センター(茨城県牛久市)では、1年以上が88.2%、2年以上が56.9%。大村入国管理センター(長崎県大村市)も、1年以上が71.8%、2年以上が29.6%だ。

提供:大橋弁護士

 こうした長期収容について、大橋弁護士は「出入国管理及び難民認定法(入管法)に反する」と指摘する。

「入管法では、入管の収容施設は、退去強制令書の発付を受けた外国人を強制送還する準備として、強制送還まで逃亡のおそれがある場合に一時的に収容しておくものと解されます。しかし実際には、入管は入管法で送還してはならないとされている難民認定申請者までも、大勢、収容してしまっています。彼らは迫害から逃れて日本に来たのですから、自分からは帰国しません。一方で入管の対応が厳しくなり、仮放免が認められなくなっていますから、収容が長期にわたる人がどんどん増えてしまうのです」(同)。

 今月1日の法務大臣会見によれば、送還を拒み入管の収容施設に拘束されている被収容者の68%が難民認定申請者か同申請を行ったことがある者だという。

○入管収容施設で難民が自殺未遂

デニズさんと日本人妻 本人提供

 仮放免も認められない長期収容は、被収容者達を精神的に追い込んでいき、自殺未遂を繰り返す状況となっている。デニズさん(苗字は匿名希望)もそうした被収容者の一人だ。彼は、少数民族クルド人への迫害が続くトルコから2007年に来日した、難民認定申請者。デニズさんは、2011年に日本人女性と結婚したものの、法務省・入管は在留資格を与えず、2016年に東日本入国管理センター(茨城県牛久市)に収容され、収容期間は3年以上にも及んでいる。長引く収容や妻と一緒にいられない苦悩、入管職員による虐待などから、収容中に自殺未遂を幾度もしている(関連記事)。

 

 デニズさんと親交のあるジャーナリストの樫田秀樹氏によれば、つい先月も、デニズさんはアルミ缶を破り、それを使って手首を切り、さらに首を切ろうとしたという。間一髪、そばにいたイラン人男性が止め、デニズさんは命拾いした

 デニズさんは長期収容に抗議し、ハンガ-ストライキを行ったため体重が著しく減少した。車イスを使わざる得なくなる程、気力・体力が衰えたことから、入管側は、仮放免する方向であることをデニズさんに伝え、ハンガーストライキをやめるよう求めた。だが、その一方で「仮放免しても2週間だけ。また収容する」と入管側に伝えられたデニズさんは絶望のあまり、上述した自殺未遂に及んだのだという。

*デニズさんは先週に仮放免されたが、やはり2週間のみで再収容される見込み

 入管の収容施設では、今年に入って、デニズさんのようにハンガーストライキを行う被収容者が続出、今年6月には大村入国管理センターに収容されていたナイジェリア男性がハンガーストライキの果てに餓死してしまった。今月1日の法務大臣会見によれば、これまで198人が自ら食事を絶ち、その内、36人が現在もハンガーストライキを継続しているのだという。

○オリンピックが難民排斥の口実に

 入管法に反し、被収容者の健康や命さえも危険にさらしてまで、なぜ、入管は長期収容を続けるのか。大橋弁護士は「オリンピックをきっかけにした治安維持政策が背景にある」と指摘する。「昨年4月26日、警察庁・法務省・厚生労働省の三省庁による合意文書『不法就労等外国人対策の推進(改訂)』がまとめられています。この三省庁の合意文書は、“実際には条約上の難民に該当する事情がないにも関わらず、濫用・誤用的に難民認定申請を行い、就労する事案”があるとした上で“政府は、2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて「世界一安全な国 日本」を作り上げることを目指している”として取り締まり強化に積極的に取り組むとしているのです」(同)。

 この警察庁・法務省・厚生労働省の三省庁合意文書にある「難民認定申請の濫用」という主張は、法務省・入管の常套句であるが、日本の難民認定審査の制度の欠陥、運用の酷さを棚に上げての、差別的なレッテル貼りも甚だしい。法務省・入管の言う「条約上の難民」の定義は時代遅れであり、現在、各国での難民認定審査の基準となっている国連難民高等弁務官事務所による「難民認定基準ハンドブック」に沿った審査が行われていないという問題がある(関連情報)。

 難民への法的支援の弁護士達でつくる「全国難民弁護団連絡会議」が指摘するように、難民性が高い、つまり母国で迫害を受ける危険性が高い難民認定の申請者を収容し続けることにより、その心を折り、難民認定申請を諦めさせ、「自発的に帰国」させるということを行っていることも極めて悪質である。これは、難民条約の大原則である「ノン・ルフールマンの原則」(迫害を受けるおそれのある国への難民の送還禁止)に反し、それは入管法にも反するものだ(関連情報)。

○オリンピック憲章に反する難民排斥

 オリンピック憲章は、その根本原則として

「オリンピズムの目的は、 人間の尊厳の保持に重きを置く平和な社会の推進を目指すために、人類の調和のとれた発展にスポーツを役立てることである」

出典:オリンピック憲章

と規定している。オリンピックに名を借りた難民排斥は、オリンピック憲章に反する開催国としてあるまじき暴挙だ。法務省・入管がその姿勢を改めることは勿論、2020年東京オリンピック・パラリンピックを推進してきた日本政府としても、入管関係の人権侵害を撲滅することが必要だろう。

(了)

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